TRANBIコンサルティングチームの安田と申します。


残暑の候、再び感染が広まってきております中、大変なご苦労をされておられることと案じております。少しでも皆様のお役に立てればと、今月もM&Aや経営に関するレポートを皆様にお届けしてまいります。

8月分ではTRANBI法人数第2位で、卸売・小売業との関係性が深かった「情報通信業」におけるM&Aの動向や特徴を、TRANBI上での交渉実績や7月実施の情報通信業に関わるアンケート結果をもとにお伝えしてまいります。


▼目次
 (1) M&Aを活用した異業種参入動向 〜情報通信業〜
 (2) PMI(M&A後の企業・事業統合)事例

 情報通信業は、同業の"情報通信"や、異業種の"卸売り・小売、教育、専門サービス"といった"消費者との直接の接点を持つ企業"との関係性が深く、「WEB・ECサイト」中心に活発なM&A行動が見られました。また、多くはM&A実績として表れていないものの、製造や建設などは「ロボ・AI・RPA」といった自動化技術へのM&A興味が高いようです。


これらのM&Aの主な目的・狙いは以下です。

・情報通信同士:異なる事業セグメント(ITメディア企業がSaaSを買収等)へ領域拡大

・卸売・小売、教育、専門サービス:事業オンライン化による顧客層拡大

・製造、建設:製品機能向上・新製品開発・コスト削減による競争力の獲得

【集計対象】

・2019年12月~2020年5月の成約案件及び2020年1月〜5月に交渉が実施された案件

・2020年7月集計の情報通信業のM&Aに関わる経営者アンケート

・2019年7月〜2020年6月のTRANBI上での情報通信業案件に対する検索ワード数

【交渉成約実績分析】

TRANBI上の情報通信業の成約案件を、業種別に確認しました。

成約まで見られた業種は「情報通信」、異業種の「教育、卸売・小売、専門サービス」でした。これらの業種は早期にM&Aシナジーが想定でき、実際にシナジーが発生するため、成約まで至るのかもしれません。


また情報通信業には様々な事業セグメントが存在するため、交渉実績を事業セグメント単位で分析しました。(TRANBI上での2020年5月単月の情報通信業の交渉実績)

「 Web・ECサイト」のM&Aが60%を占めており主流である一方、「AI・IoT・ロボ等」の最新テクノロジーの案件に対するM&Aの交渉実績は少数でした。

ちなみにこの最新テクノロジーに対するM&A案件は、例えば「製造」のようなB to B企業が、より高性能な製品を開発するためにAI/RPA事業を買収するというものでした。



【興味分析(経営者アンケート・検索ワードより)】

次に、7月実施の"情報通信業M&Aについてのアンケート" にて情報通信業の中でも興味のある事業セグメントを確認しました。(有効回答:40件)※複数回答

実績分析の結果同様、「Web・アプリ開発」や「自社Webサービス」への興味は高いですが、「AI・IoT・ロボなど最新テクノロジー」への興味も伺えます。


一方、情報通信業の事業セグメントに関わるTRANBI上での直近1年間の検索ワードのランキングを確認した結果が以下です。

「AI・IoT」などの自動化技術への検索は緩やかに上昇傾向のようです。「EC」は2020年1月から検索数が顕著に上昇しており、TRANBIの検索ワードの中でも直近で第3位となりました。

更にこの「EC」を多く検索している業種の検索数推移を確認しました。

「EC」というワードは以前同様のEC事業(卸売、情報通信)が主として検索していましたが、コロナウィルスの影響が顕著に見られるようになった2020年1Qでは小売・飲食・美容など顧客とのオフライン接点をもつ業界も多く検索し始めていることが伺えます。

分析結果と具体事例から情報通信業が絡むM&Aのシナジーは以下と考えます。

情報通信業同士のM&Aでも、事業セグメント単位では異なるケースが多く、顧客層拡大などの横展開のシナジーが狙えます。お互いの製品群と顧客層がクロスでフィットすることは卸売・小売業同士でも見られましたので、顧客接点を持つ業種同士のM&Aはクロスフィットのシナジーが狙えるようです。具体事例は以下を参考にしてください。

 (事例 IT×IT 1)

 (事例 IT×IT 2)

「卸売・小売り」や「教育、専門サービス」のようなB to C事業とのM&Aの場合では、オフライン商材・コンテンツをオンライン化することで、顧客層の拡大が狙えます。

「製造」や「建設」のようなB to B事業とのM&A事例も少数見られ、同じくB to B技術である「AI/IoT、ロボ/RPA」事業を買収することで、既存製品の機能強化・新製品の開発・コスト削減を実現することで競争力の獲得が狙えます。



上記シナジーが狙えるものの、M&A後の企業・事業統合の状況次第でシナジーを発揮できないケースが見られるため、具体的なPMI事例を参考に統合時の課題を紐解きました。

M&Aでは、"従業員のスキル・知見"がシナジー発生に重要であるため、従業員の離職リスクを避けることが重要です。


「経営層が売却益の分配で対立し時間が取られ、体制変更に対する従業員のケアが不十分であること」、「M&A前に買い手・売り手従業員の役割を整理できず不信感をもたせてしまうこと」は離職に繋がるため、事前の対処が必要です。

・事業内容 :デザイナーを育てるオンライン学習サービス運営、デザイン受託制作。 自社にデザイン人材を抱えている(A社)

・社員数  :10人以下

・インタビュー対象の立場:売り手側企業の代表取締役(X氏)

・M&A相手:国産・輸入車ディーラー事業・自動車卸売事業を営む社員数1,000人以上企業。自社デザイナーは少数で、必要に応じて発注できる外部デザイナーと繋がり(B社)

【Q.1 M&A実施の背景や、想定していたシナジーは何ですか?】

 X氏)デザイン受託制作事業の需要過多により、社内デザイナーでは手が回りきらず、社内の人間関係が悪化していました。事業の長期継続が難しいと判断し、当時活発にM&Aによる企業買収を行っていた自動車卸売企業であるB社を売却先として選び、M&A交渉を開始しました。


弊社(A社)としてはB社が抱える外部デザイナー人材を活用することで需要過多となっているデザイン制作依頼に対応して事業継続・拡大することを狙いとし、B社としてはデザイン人材の確保によって事業領域を拡大することと、デザイナーの外注費を削減し内部化することを狙いとしているようでした。



【Q.2 M&A成約までにどのような課題がありましたか?】

 X氏)弊社では経営層間でM&Aに関する理解度のギャップが大きく、特に利害関係の絡む売却益で対立・反発が生じ、成約が大きく遅延してしまいました。


創業者である会長にM&Aによる売却を相談した際、利益目的での売却を疑われ、売却益から数百万円を支払うよう要求されました。経営層間の対立は激化し、M&A交渉が難航してしまったのです。


また、従業員であるデザイナーも講師として「デザイナーを育てるオンライン学習サービス運営」に大きく貢献していたことを理由に、本事業の売却益全額の権利を主張してきました。


これらの社内コミュニケーションに多くの時間を割かれた結果、社内体制変更に向けた従業員のケアに手が回らないまま成約まで進んでしまいました。



【Q.3 M&A成約後の統合段階でどのような課題がありましたか?】

 X氏)弊社従業員の離職を招いたことが最大の失敗です。売却時の人員は10名でしたが、売却後8名が離職してしまい、残ったのは2名です。


離職の大きな原因は、弊社従業員が、B社の経営層に不信感を持ってしまったことです。

弊社には元々バックオフィス等デザイナー以外の職種も在籍していたのですが、M&Aの経験が多いB社は統合段階でバックオフィス人材を弊社に派遣してきたため、元々在籍していた社員の役割がなくなりました。

その扱いに弊社従業員全体でB社に対する不信感が広がってしまい、離職が進んでしまったのです。


結果、弊社従業員が多く離職したことで、B社が当初想定していた「デザイナー人材の内部化によるコスト削減」というM&Aの狙いは達成されない状態となりました。


弊社としても当初B社の外部デザイナーと連携し、デザイン受託の需要拡大に対応する想定でしたが、実際はデザイナーの就労条件や権利の交渉に終始し、現時点では連携が実現できていません。

今回はM&A前後で様々な課題に苦悩する売り手経営者の姿が見られました。
売り手であるA社としてはデザインのスキル・知見を持つ人材が武器であり、買い手であるB社目線ではその人材が離職することは最も避けたいことでしたが、それに失敗しています。

離職の原因は、大きく以下2点のようです。
(1)経営層間でM&Aに対する理解度のギャップが大きく、売却益の分配で対立が発生し成約が遅延、体制変更に関する従業員のケアが不十分であったこと
(2)M&A前に買い手・売り手従業員の役割が整理されていなかったことで、買い手経営者に不信感を持たせてしまったこと

上記に対して、例えば
(1)は「M&Aの事業メリットを予め整理し、早期にステークホルダーとコミュニケーションを進めておくこと」で、
(2)は「M&Aにより従業員の役割の重複が発生することを前提として、統合後の役割の方針を事前に従業員と合意しておくこと」で、離職リスクを低減できたかもしれません。

8月分は「情報通信業」が関わるM&A分析を中心としたレポートをお届けいたしましたが、次回は「情報通信業」との相関性の高かった「教育・学習塾・お稽古」のレポートをお届けしたいと考えております。M&Aの最新動向や興味をお伺いしたく、「教育・学習塾・お稽古」に関するアンケートにご回答頂けますと幸いです。

【教育業関連アンケート】


また、2020年8月号レポートに対する感想を以下リンクよりお寄せください。「この部分をもう少し深掘りして知りたい」「この業種について同様の分析が欲しい」などのご要望もお待ちしております。

【8月レポートのFBアンケート】